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ERPコラム

機能する人事制度 再構築の視点

麻野 進
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第5回(最終回)
「報酬制度見直しの視点」


人事制度再構築のコラムは今回が最終回となります。3回目のコラムで「等級制度は処遇思想を表したものだから最も重要」というようなことを書きましたが、社員にとって最も関心度の高いのは報酬制度です。

最近は、「報酬より仕事のやりがいや自己実現が大事」とおっしゃる方が増えていますが、そういう人であっても転職を検討する際に給与が下がるのはイヤだといいますし、上司から「良い評価だ。貢献度高い」と賞賛されても、実際の報酬の改善に繋がらなければ、不満が募ります。だからといって報酬額を大幅に上げれば、社員は益々やる気になって頑張るかというとそういうものでもありません。報酬は上がって喜んだ瞬間「これだけ貰って当たり前」という感情に置き換わってしまうものです。

自社の『報酬水準』をどこにもっていくのか
報酬制度を設計する上で、最も重要なことは『報酬水準』をどのレベルにするのかということと、『報酬格差』をどの程度にするのかという処遇思想をどう固めるかです。どんな給与改定の仕組みにするかは、技術的な問題ですので、賃金設計の専門家に任せればよいのです。

基本的に『報酬水準』は、同業(競合)企業をいくつか設定し、その企業群の中で自社の報酬水準をどの程度に位置づけるかを決めます。ここでいう同業企業とは、同じ業界で同種類の商品を扱っているというだけでは不十分です。売上額や総資産、株主資本、従業員数などの情報でできるだけ自社に近い企業群が望ましい。自社で調査が困難な場合は、報酬水準調査を行っている人事系のコンサルティング会社に依頼するのもよいでしょう。

ただ、同業(競合)他社の報酬水準が高いからといって、自社の水準を一気に引き上げるのは現実的ではありませんが、少なくとも、自社のハイパフォーマーの水準が他社とあまり見劣りしないレベル(リテンション水準)は確保する必要があります。

■コラムのコラム 〜ヘッドハンティング対象の若年化〜
ヘッドハンティングという言葉を聞いて、皆さんはどういう印象を持たれますか。経営者や事業部長候補など限られたトップ級の人材の話だと思っていませんか。最近では、優秀だと思われると20代の若手社員でもヘッドハントの対象となっています。「普通の人材紹介会社からの紹介では、普通の人材は照会されるが、ハイパフォーマーは採れない。多少お金がかかっても出来る人材を確実にGETしたい」という求人ニーズが高まっているようです。皆さんの会社も若手の優秀人材が引き抜かれないようにリテンション策を立てておくことをお勧めします。

報酬の格差問題をどう考えるか
報酬制度のもうひとつの重要なテーマは、『格差』をどの程度つけるかです。格差問題の例をご紹介しましょう。私が以前担当していたクライアントで、ある大企業の子会社があるのですが、親会社と業界は異なり、非常に厳しい過当競争(業界5位の中堅)を強いられていました。報酬体系は給与・賞与とも親会社とほぼ同様のもので、その業界ではトップレベルの報酬を各階層の社員に支給しており(平均報酬額が高く、当然労働分配率も高い)、かつ格差の少ない安定した制度でした。

過当競争の業界において、このような報酬体系では、次のような現象が起りやすくなります。(この企業では起っていました)

(1) ハイパフォーマーのモラールダウン
ハイパフォーマーからすると、いくら頑張っても自分より劣ると思われるローパフォーマーとたいして報酬額が変わらないため、頑張るだけ損だという発想が生まれる。(この企業は社員の平均年齢も高く、上のポストがつかえていたことと、昇格基準が示されていなかったことも影響している)
図表 報酬の高さとパフォーマンスの関係イメージ
   
(2) ローパフォーマーの甘え
ローパフォーマーだからといって、報酬を低く抑えられる訳でもなく、毎年いくらかは昇給もあるので「会社は業績、業績とうるさいが、いまの報酬があれば、特に不満はない。働きに見合った賃金かな」。年配者は子供の養育費負担も減ったので、「いまさら必死にならなくてもあと数年で退職金・・・」というマインドになりやすい。

このような状況を考えると、ハイパフォーマーには『業界トップクラスの水準』を、ローパフォーマーには『現行水準からの引き下げの可能性』を持たせるという方針が見えてきそうです。

年齢・勤続年数を尊重するのか貢献度を重視とするか
既に始まっている企業の少子高齢化に対応するために、「若年層を大切に育てよう!」「高齢者を積極的に活用しよう!」というフレーズが目に付きます。どちらを重視するのかという問題ではありませんが、年齢や勤続年数をベースとした昇給方法では、少なくとも若手のハイパフィーマーを十分に処遇しきれないため、この体系の存続は(もちろん報酬全体の中の比率にも寄りますが)、伸び盛りの若手ハイパフォーマーのリテンションにはなり得ません。やはり、加齢による自動昇給の要素は排除して、貢献度(評価)をベースとする給与改定(マイナス昇給もありうる)を進めるべきでしょう。ただし、年齢要件を払拭するのであれば、「57歳で基本給の10%カット」というような処遇定年制度は廃止すべきです。

報酬はお金だけではありません
今回のコラムでは一般的な報酬(給与・賞与)制度に関してお話を進めてまいりました。しかし報酬を『社員の貢献に対して会社が報いること』と定義すれば、報いる方法論としては、必ずしも給与や賞与のような金銭的報酬だけではありません。

例えば、昇進、昇格、予算や権限の付与、休日・休暇の付与、魅力的な仕事へのアサイン、FA権等の付与、社内表彰、福利厚生ポイントの付与、作業環境の改善(整備)、研究職であれば自由テーマの研究時間の確保等々。米国の人事協会(World At Work)は、金銭的報酬と上記のような非金銭的報酬を合わせてトータル・リウォードという考え方を提唱しています。

価値観や生活環境、生活水準、世帯収支格差(お父さんが全家族を養う世帯とDINKS世帯の格差等)など多様化が進む社員の人事処遇を考えたとき、給与と賞与だけの改定では、真に公正な『社員に報いる制度』の実現は難しいでしょう。



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