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ERPコラム

機能する人事制度 再構築の視点

麻野 進
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第2回(全5回)
『今の人事制度はなにが問題ですか?』現状分析のすすめ


前回のコラムで、人事制度を再構築する前に、人事理念・方針を明確にすることが大切だとお話しましたが、もうひとつ大事なこととして現状分析があります。

人事制度は社員の働き方に一定の方向付けを行う仕組みですから、「成果主義なのか」「能力主義なのか」「役割と責任に基づく処遇とするのか」等々どのような人事制度にするのかという制度構築思想を固めなければなりません。その際に自社の状況はどうなっているのかという現状分析をしっかりしなければならないはずですが、意外となおざりにされていることが少なくありません。

「現状分析にあまり多くの時間を掛けても、答えは決まっているのだから、とりあえず世間で流行っている人事制度と自社の現行制度との違いを比較することで良しとするか」そんな程度で済ませてしまうようです。最近、私どもに来るコンサルティング依頼についても「我社にも成果主義を取り入れたい」とおっしゃる企業と同じくらい「数年前に導入した成果主義人事制度は、失敗だったので再構築したい」という企業が多く、そういう企業に限って現状分析がしっかり行われずに新人事制度を導入しています。

まずは、自社の現状分析をしましょう
人事制度改革で最も重要なことは、いかに『機能する人事制度』を構築することができるかということですから、人事制度のトレンドや形態、手法など表面的な事柄に左右されないように、自社の現状分析、そして現行制度分析という検討プロセスの原則を守っていただきたい。
自社の現状分析で最初に取り掛かることは、以下のような人事を取り巻く状況を把握・分析するということです。

(1) 自社の置かれた経営環境
(2) (1)を踏まえた経営方針・経営戦略の確認
(3) 会社業績の推移の確認・分析(売上高成長率、利益額、労働分配率、社員一人当たり売上高・利益額など)
特に労働分配率は、重要な指標です。労働分配率とは投入した人件費に対してどれほどの付加価値を稼いだのかを測る指標です。

次に、以下の項目を個別・具体的に見ていきます。

(4) 担当職務の分析
職種別・階層別職務内容を一覧表に整理し、役割がどのように分担されているのかを確認します。ここで重要なことは、必要な職務であれば、現在やっていなくても書き出すことです。ある役割に対して必要な職務があるにも関わらずやられていないのは、職務と人材との間でミスマッチが起っているからです。ただ、この分析は新制度の方向性や有効性を見極めるために行うものであり、評価基準を作成するためにするのではないので、あまり細かく職務の抽出作業を行う必要はありません。疲れてしまいます。
   
(5) 人的資源の分析
人的資源の分析は、『労働力』と『人件費』という観点で見る必要があります。 労働力とは「どんな知識・能力・経験を保有した人材が、どれだけ存在するのか」という人材の質および量を把握しようとするもので、職務経験や資格の取得・保有状況などを把握します。
人件費という観点からは報酬(月例賃金、賞与)データを加工して、年齢別・等級別・役職別に分布図を作成し、それぞれの平均額を算出しておきます。ここではあくまで事実を客観的に捉えることが重要で、年齢別賃金分布図が右肩上がりだからといって「年功的賃金だから問題だ」と早急に結論を出すべきではありません。少なくとも業務と人材のマッチング状況によっては解釈が変わりうるものであり、『年功的であるか否か』をことさら意識すると無意識的に偏った情報を過大・過小評価してしまうことになります。

図表1 現状分析のプロセス

次に、現行制度の分析をしましょう
前項のように「人事を取り巻く環境」を把握し、職務と人的資源の棚卸をしてから、現行制度の分析を行います。ここではコアとなる等級、評価、報酬制度を見ていきます。

(1)等級制度の分析
等級制度は処遇思想をダイレクトに反映させた仕組みですので、非常に重要な制度です。「能力の高さなのか」「役割・責任の重さなのか」「職務の価値なのか」等々、いずれの格付け方針を採用するにしても、分析の視点は職務と人材とのマッチング状況が鍵となります。「経験豊富な営業パーソンが不足している」「管理職手前の中堅社員が機能していない」「ポスト(役割)の数より役職者が多い」など見るべき視点は数多くあります。例えば必要とされるスペックの人材が不足している状態が続いているのであれば、採用あるいは育成ができていないと言えますが、そもそもどういう人材が必要なのかが明らかでないために、目指そうとする人材がいないのかもしれません。であれば、職能要件書、職務基準書、等級定義を確認し、どう見直そうかという方向性が出てきます。

(2)評価制度の分析
評価制度は人事制度の中で唯一現場の当事者に運用を委ねなければならないものですから、分析のためには現場管理職へのヒアリングが必要となります。分析に当たって、整理すべき項目は「仕組み(制度)上の問題なのか」「運用上の問題なのか」「評価当事者の問題なのか」3点です。

図表2 評価制度分析の視点


(3)報酬制度・人件費の分析
報酬に関する分析は、月例賃金、賞与、退職金、年収、手当等報酬に関わるすべての項目が対象となり、『水準』と『格差』の2つの軸で分析します。

水準は企業の人材競争力を左右する重要な項目です。人材競争力とは『コスト(人件費)競争力』と『人材獲得競争力』の2つの側面があり、報酬水準を引き上げると人材獲得競争力は上がるけれど、コスト競争力は低下するというトレードオフの関係にあります。しかしどちらを重視すべきなのかは企業戦略によって変わってしまいます。例えば徹底した低コスト戦略を志向するのであれば、コスト競争力を重視する必要があるでしょうし、高付加価値戦略を取るのであれば、報酬水準を高めに設定し、人材獲得競争力を重視せざるを得ません。

格差問題については個人プレーが求められる仕事か、チームプレーを重視すべきかが大きなポイントなります。人事制度改革では『不公平感』が問題となりますが、個人プレー中心の職務であれば個人の実力差が明確に出やすいため、役割が同じであれば、ある程度の格差がないと、不公平な制度となります。逆にチームプレーが重視される職務で格差をつけ過ぎてしまうと、不公平な制度といわれます。

このような手順を経て人事改革を構想することで地に足の着いた『機能する人事制度の構築』が可能となるのです。では次回以降は、コアとなる人事制度である等級制度、評価制度、報酬制度についての検討のポイントを解説します。



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