|
一昨年あたりから急激に「企業不祥事」が明るみになるケースが増大している。昨年は特に食品業界における「偽装問題」が世間を騒がせた。しかし、これは民間企業に限った話ではない。年金問題をはじめ、「政・官・財」にわたる多くの分野・組織において、過去の隠蔽工作や不祥事が次々と明るみになり、世間においては日本社会の将来を危ぶむ声が少なくない。
背景として、ネット社会における安易な情報流出や、情報公開を求める世論の動き等々もあるが、これらの問題は(筆者が思うに)決して今に始まった話ではないように思われる。さらに言えば、これらの問題は全て人為的な問題、いわば人材・組織マネジメントの問題に起因していると断言できる。『個を活かし組織力を高める人材マネジメントの手法』を考える第3回目の今回は、仕事をする個人が陥りがちな罠の所在とその回避方法について論じてみたい。
■「人間力」の低下 |
 |
社会が成熟化し、テクノロジーの進歩も著しい現代にあって、人材マネジメントだけが進化せず、旧態依然のまま取り残されている感がある。わかりやすい例をあげれば、IT社会の中でうまく対応しておらず、新たなマネジメントツールを使いこなせていないケースが散見される。もっと言えば、そのようなツールの機能に頼ることによって、肝心のマネジメントそのものが疎かにされているケースがかなり多い。
ある局面を見ると、働くビジネスパーソンは「メンタル面の脆弱化」や「人間力の低下」といったことが指摘されてしまっている。果たして、一体何が彼らをそのような状態にさせてしまっているのだろうか?
旧来の会社組織においては、仕事とは上司から直接に指示・命令を受けて行うのが当たり前であった。出社したらデスクの上に「君がやるべき○○○の仕事は・・・」と上司から詳細なメモが残されていたというようなケースなどなかったであろう。「そういう事は、直接面と向かって話さないとダメだ」という風潮が、世の中全体の共通認識としてあったように思われる。
ところが、Eメール文化の普及により、メール上で指示・命令はおろか、日常的なコミュニケーションや意思決定、場合によっては不平・不満を吐き出すことも容易にできてしまう時代である。結局のところ、仕事の大半はメールを通じて行うようになり、必要な議論や話し合いまでもが急速に減りつつある状態にあるのではないだろうか。結果として、人間同士が直接に対峙することで培われ向上していくような「人間力」(⇒【図1】参照)の部分が削がれてしまっていると考えられる。
ビジネス社会における「人間力」とは、「成果を生み出すために、知識や技術等の専門性を実際の業務に活かすことのできる基礎能力」と定義づけることができるが、この中で極めて重要な要素が「対人能力」である。メールによるコミュニケーションは、「一方的に発信する」、「一方的に受信する」の繰り返しであるので、「情報を瞬時に(且つ多数へ)伝える」という機能の活用においては極めて有効であるが、「対人能力」を磨く上では、Face-to-Face(或いは電話)によるコミュニケーションには遠く及ばない。
それどころか、文字情報を過度に意識してしまうことにより、かえってストレスが増す要因が増幅していることも多い。テクノロジー(IT)の進歩がもたらす弊害が、こんな所にも存在するということをまず認識しておく必要がある。
基
礎
能
力 |
対人能力 |
親和力 |
他者との豊かな人間関係を築く力。営業現場で顧客と良好な関係を築いたり、職場の先輩や同僚から必要な情報を得たりする場面などで必要になる。 |
| 協働力 |
目標に向けて協力的に仕事を進める力。チームで仕事をする際、メンバーと良い関係を築き、共通の目標に向かって協働するために欠かせない力である。 |
| 統率力 |
場を読み、組織を動かす力。会議を仕切ったり、集団の中で自分の意見を主張したり、他人の主張も取り入れながら、意見をまとめていく場面で必要になる力である。 |
| 対自己能力 |
感情制御力 |
気持ちの揺れをコントロールする力。この力があると、職場でストレスを感じても自分なりにうまく処理することができる。 |
| 自信創出力 |
ポジティブな考え方やモチベーションを維持する力。自己に足らない力を認識した上で、自己を成長させる力である。 |
| 行動持続力 |
主体的に行動すること、良い行動を習慣づける力。さらに、そのような過程で、学習の習慣化を可能にする力である。 |
| 対課題能力 |
課題発見力 |
問題の所在を明らかにし、必要な情報分析を行う力。与えられた課題を解決するだけでなく、自ら課題を見つけ出し解決に取り組む力である。 |
| 計画立案力 |
課題解決のため、効果的な計画を立てられる力。仕事全体の流れをとらえ、複数の関係者のスケジュールにも気を配りながら、計画を立案・調整していく力である。 |
| 実践力 |
効果的な計画に沿った実践行動をとる力。机の前で長時間考え続けるのではなく、他の人に相談する、まずやってみるといった行動を起こす力である。 |
基
礎
的
素
養 |
処理力 |
言語処理力 |
言葉の意味を正しく把握し、文章の構成や要旨を的確に理解する力。システムの指示書を依頼先に意図が伝わるようにまとめる、顧客からのメールに書かれた内容の背景を読みとるといった場面で活用される。 |
| 数量処理力 |
加減乗除の計算能力や、グラフ・表を正確に解釈する力。営業場面で顧客に対し、売り上げに与える効果を即座に計算して示したり、調査結果をわかりやすく表現したりするなど、数量処理力を使う仕事場面は多い。 |
| 思考力 |
論理的思考力 |
知識や情報を組み合わせ、構造的に物事をとらえ、的確な判断を導きだす力。論理の構造を把握する力はあらゆる仕事の場面で必要となる。 |
| 創造的思考力 |
既存の物事を別の視点で見ることにより、決まったやり方で進められていた仕事の中で新しいやり方や考え方を生み出す力。 |
|

参考:リクルートワークス研究所 |
■人間が行うマネジメントとマネジメントツールの差 |
 |
前述したマネジメントツールには、コミュニケーション手段としてのEメールも含め、現代においてはITの進歩によって数多くの種類が存在している。こと人材マネジメントに関しては、かつての人事情報システムからERPにグレードアップすることにより、かなり精度の高い情報が効果的に活用できるようになった(⇒【図2】参照)。その一つひとつの機能は、従来属人的な情報に頼っていたようなものを瞬時に検索したり、独自のデータ解析を加えたりするようなことも可能であるから、まさに現代の人材マネジメントにとっては極めて有効なツールと言える。
ところが、これ程の機能を備えたERPを導入するに当たり、ユーザートレーニング(=使用方法の研修)を行っただけで終わってしまう企業が圧倒的に多い。もちろん、効果的な活用方法を知ることは最低限必要なことなのだが、そのような新しいシステムやツールを導入することで、当該企業におけるマネジメントの方針や手法がどのように変化するかという観点で教育を行わなければ、導入するメリットが半減するばかりか、導入によるデメリットが発生してしまうこともあり得るのである。
この代表的な例が、前述した「人対人」のコミュニケーションに関する問題である。「システムの中に情報は入っているから、そこを見れば何でもわかりますよ」という具合に、利便性だけを簡単に評価してしまうと、そこにある「情報」のみが価値のあるものとして認識されることになり、「人のマネジメント」という肝心の部分が欠落してしまう。
最も大きな問題は、その欠落したこと自体を全く認識できていないような場合である。従来は、上司が直接面と向かって部下に対して指導・育成していたような内容が、システム上の画面で部下が入力したものを上司が後日コメントするというプロセスに変更になった途端、口頭でのコミュニケーションは「あれ見ておいてね」だけで終わってしまう。
本来であれば、言葉のキャッチボールを直接的に行うことにより、相互の理解が深まり、共通認識も生まれるというものだが、文字情報を見ただけでは、その言葉(文字)の概念に対する理解の違いも手伝い、文面自体が間違って解釈される可能性が少なからず高まる。そこで認識の不一致が生じれば、部下の意見も上司のコメントも、目標レベルも達成状況も、評価結果も評価フィードバックも、全てミスリーディングとなり得るのである。
またそこには、文字情報を通して相手を見ることによって、相手に対する感情(良いものも悪いものも)を伝えられないまま不完全燃焼になることも予想され、メンタル面での不健全な状態につながる可能性も出てくる。仮に相手に対する感情を悪化させてしまうと、当然ながら仕事に対するモチベーションにも悪影響が及んでしまう。あえてネガティブな面ばかりを強調したが、このような状況が発生するリスクをわかっていれば、自ずと直接的な対話によるコミュニケーションがいかに大切かということも理解できるのではないだろうか。
マネジメントとは生きた「人」を扱うものであるから、 マネジメントツールという「物」の存在だけで合理的に済まされるものではないのである。(拡大解釈であるかもしれないが、人間は「人」が相手であれば簡単に罪を犯すことはできないが、相手が「物」であれば意外と簡単にそのガードが緩んでしまうのかもしれない。昨今の企業不祥事の原因を見るにつけ、そのように感じた。)
次回のコラムでは、今回取り上げた「文字情報」に基づいて企業内で運用することが一般的に多い、役割・ミッションの定義や目標設定の手法・考え方について論じたいと思う。

|