社員全体の底上げを目的としたキャリアマネジメントもビジネスリーダー創出のためのコア人材の育成も、いうまでもなく個人がいかに自律的に自身のキャリア開発に取り組むかということが最も重要なキーファクターになります。
コア人材育成に関しては、前述したように企業側が“戦略的に創り出す”必要がありますが、これもあくまでも体系化された“学習する場、成長する場”を企業側が提供するということであり、その“場”を活かして成長できるか否かは、個人の自律性に負うしかないということです。
コア人材も、能力管理を主体としたキャリアマネジメント機能の中から育つものであり、キャリアデベロップメントのある時点で“ビジネスリーダー”という一つの専門キャリアを選択するということに他なりません。
その意味でキャリアマネジメントとコア人材育成は、全く別の概念ということではなく、企業全体の組織力を高めるという目的においては同一線上にある重要な機能です。そして双方とも個人の自律的な意志・姿勢が大前提になります。
キャリアマネジメントもコア人材作成も制度的なアプローチですが、そもそもいかなる制度を当てはめてみても、個人の意識に変化が無い限り、効果は半減します。
本来、人事部に求められる最も重要な機能は、個人の意識変革およびその結果としての組織文化の変革であるはずです。今回は、個人の意識・組織文化を変革していくためのチェンジリーダー機能について説明します。
よく“組織風土”あるいは“組織文化”という言い方をします。日本語では特段区別しない場合が多いのですが、英語では概念が異なります。(図表1)組織風土は“Climate”であり、これは仕組みやルールつまり組織・制度レベルのアプローチで一時的に変わるものです。一方、組織文化は“Culture”であり、これは組織のメンタルプログラムつまり個人の価値観や動機、行動様式の集合体です。所謂、組織の“常識”と呼ばれるもので、これは、単に制度やルールを設定するだけでは変化させることが困難であり、個人個人の意識レベルからアプローチする必要があります。

組織の実践力の発展段階には、特定個人のリーダーシップによるもの、仕組み・制度によるもの、組織文化によるものの3段階があると言われていますが、組織文化による実践力が最も持続性が高く強い効力を発揮します。
単に制度をつくり、それを問題なく運用するということ(= 秩序の維持)だけではなく、個々人の意識を変え、自主的・持続的に変革を続けられる「組織文化による実践力」をつくること(= 変革対応の環境づくり)が、これからの人事部の至上命題になるでしょう。
その際、まず人事部に求められるものは、“チェンジリーダー”としての役割です。チェンジリーダーは、組織に対して常にメッセージを発信、方向性を提示し、それをチェンジエージェント、ローカルエージェントから成る変革ネットワークを活用して組織内に浸透させていきます。(図表2)
ここで重要なのはチェンジリーダーのメッセージを正確に維持・伝達するチェンジエージェントの存在です。チェンジエージェントは、各現場のリーダークラス、組織規模により、通常、本部長・部長あるいは課長クラスがその役割を担うことになります。
チェンジエージェントは、常にチェンジリーダー(人事部)と価値観・目的を共有化していること、文字どおりチェンジリーダーの代理人として機能することが必要になります。現場にいかに多くのエージェントをもつことができるかが、チェンジリーダーとしての成否を左右すると言えるでしょう。

組織に何か変化を起こそうとする際には必ず“抵抗”が発生します。チェンジリーダーは、その抵抗を最小化しなければなりません。抵抗が発生する原因には、大きく分けて2つあります。一つは“できない”という「能力の問題」であり、もうひとつは“やりたくない”という「意志の問題」です。“できない”理由には、「知らない・分からない」といったコミュニケーションギャップ、「スキル・能力がない」といったスキルギャップ、「体制がない」といったストラクチャーギャップがあり、“やりたくない”理由には、「得することがない・効果がない」といったインセンティブギャップ、「馴染めない・信条に合わない」といったカルチャーギャップがあります。
能力の問題と意志の問題は、能力の問題のほうがより根源的なものであり、抵抗の度合は強くなります。意志の問題は、能力の問題に影響される場合が多く、つまり、出来ないと感じるとやりたくなくなり、できると感じるとやりたくなるという関係性になります。
誰でも何か物事を習うという場面で、こうした経験があるはずです。ですから、制度導入、組織改革等いかなる変革に当たっても、まず、“できる”と感じさせることが重要であり、そのためにはチェンジエージェントを通じてタイムリーに変革についての情報を社員に提供するとともに、早期に変革に対する説明会・トレーニング等を実施し、知識とスキルを身に付けさせることが大切です。
“エージェント”、“コミュニケーション”、“巻き込み”、“成功体験”が、抵抗を抑え変革を促進するための4つのキーファクターになりますが(図表3)、“成功体験”は必ず必要な要素です。できると思わせた後、たとえ小さな事でも変革の効果を実感させることで、変革に対する抵抗は急激に減少します。

従来の人事部機能は、制度や仕組みの適用によるある意味で全社員平等な(一律的な)
マネジメントが主流でした。しかし、制度による管理(所謂“成果主義”)が行き詰まりをみせ、企業および個人の価値観が変化している現在は、個人の多様性を認め、更にそれを伸ばしていくためのマネジメントが必要になってきます。
個人の多様なキャリア志向を活用し社員全体の底上げを行う、その中から企業を牽引していくビジネスリーダーを育成する、更に個々人の意識変革を行いその多様性を活用することにより、変革推進力の高い「組織文化による実践力」をもった組織をつくること、こうした多様性・変化対応型マネジメントが今後の人事部の最大の役割であると言えるでしょう。

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